銀の杯

兄たちを試すテストがクライマックスを迎える。ヨセフは、管理者に次の3つのことを命じた。（1）兄弟たちの袋を運べるだけの食糧で満たした。つまり、代価以上の食糧を与えたのである。（2）彼らの銀をおのおのの袋に返した。（3）銀の杯をひそかにベニヤミンの袋に入れた。
兄弟たちは、明け方に、ロバと共に送り出された。ヨセフは頃合いを見計らって、管理者に兄弟たちの後を追わせ、「なぜ、あなたがたは悪をもって善に報いるのか」と言わせた。管理者は、なぜ主人がまじないのために使っている杯を取ったかと迫った（アッシリヤ人、カルデヤ人、エジプト人のまじないの中には、銀の杯を使ったものがあった）。ヨセフがまじないを行うはずはないのだが、ここでは、罪の重さを強調するためにこのような表現が使われている。管理者は演技をしているのだ。兄弟たちは、そのようなことは絶対にあり得ないと深く確信していたので、もし杯が見つかれば、その者は死刑となり、他の者は全員奴隷になってもよいと提案した。しかし、これは言い過ぎである。

ベニヤミンの袋

管理者は、「お前たちの言うとおりにしよう」とその提案に同意したが、彼らが自己申告した刑罰そのものは軽減した。「それが見つかった者は、私の奴隷となり、他の者は無罪としよう」。つまり、犯人だけがヨセフの奴隷となり、他の者は無罪になるということである。袋の吟味ぎんみは、年長の者から始まり、年齢順に下っていった（管理者は、食卓の席順を見ていたのである）。これは、緊張感を高めるために取られた方法である。銀の杯はベニヤミンの袋から見つかった（管理者は自分で杯を隠かくしたので、それが末の弟の袋から出て来ることを知っていた）。兄弟たちの反応を見てみよう。（1）彼らは、着物を引き裂いた。これは、驚愕きょうがく、悲しみ、絶望などを表現する行為である。（2）彼らは、ろばに荷を負わせて町に引き返した。彼らは、ベニヤミンの身に起こることを心配しているのである。ベニヤミンをエジプトに残して、父のもとに帰ることは到底できない。
この箇所から教訓を学ぼう。いかに自分が正しいと思っても、限度を超えて義の主張をしてはならない。特に、神の御前みまえではそうである。「あなたは正しすぎてはならない。知恵がありすぎてはならない。なぜあなたは自分を滅ぼそうとするのか」（伝7：16）。この聖句の意味を黙想してみよう。神と人の前で謙遜けんそんであることを学ぼうではないか。