権威が逸脱する可能性

パウロは、「人はみな、上に立つ権威に従うべきです」（1節a）と命じています。彼は、従順であるべき理由を3つ上げています。① すべての権威は神によって立てられているから。② 自分自身の祝福のため。③ 自分自身の良心のため。以上が、これまで確認した内容です。では、権威への抵抗の可能性はないのでしょうか。今回は、それについて考えてみましょう。
確かに、すべての権威は神によって立てられたものです。しかし、その権威が、神によって与えられた使命から逸脱いつだつすることが往々にしてあります。（1）「権威」（1節a）とは、ギリシア語で「エクスーシア」です。この言葉は、エペソ2：2でも使われています。「そのころは、それらの罪の中にあってこの世の流れに従い、空中の権威を持つ支配者として今も不従順の子らの中に働いている霊に従って、歩んでいました」。「権威」は、堕天使と関連した言葉でもあります。サタンは、神によって立てられた権威が神に反抗した究極の例です。（2）そのような場合、堕落した権威に従うなら、それは信者の使命を放棄ほうきしたことになります。ヒトラーは、ロマ書13章を根拠に、教会に国家への従順を要求しました。また、ポーランドのクリスチャンたちは、法律に従うという理由で、ユダヤ人たちをかくまうことを拒否しました。これは20世紀に起こった非常に不幸な例です。

聖書に記された「権威に反抗した例」

（1）出エジプト1：15〜17には、神を恐れたユダヤ人の助産婦たちが登場します。彼女たちは、パロの命令よりも、神の義を優先させたのです。（2）使徒4：19〜20にはこうあります。「ペテロとヨハネは彼らに答えて言った。『神に聞き従うより、あなたがたに聞き従うほうが、神の前に正しいかどうか、判断してください。私たちは、自分の見たこと、また聞いたことを、話さないわけにはいきません』」。（3）使徒5：29にはこうあります。「ペテロをはじめ使徒たちは答えて言った。『人に従うより、神に従うべきです』」
ローマ13：1〜7を私たちの生活に適用すると、次のようになります。（1）地上の権威には従う。（2）しかし、その権威が神に反抗する場合は、声を上げ、抵抗する。本国の指示に反して6千人のユダヤ人にビザを発行した外交官の杉原すぎはら千畝ちうね氏や、ナチスの支配に抵抗して死刑になったデートリッヒ・ボンヘッファー牧師は、私たちが見習うべき手本です。