はじめに

この箇所から、「聖化せいか」についての議論に入ります（6：1 〜 8：17）。先に進む前に、聖書が教える「救い」について復習してみます。救いに関しては、3種類の説明法があります。（1）第1の説明法。① 義認は、過去形の救いであり、一度限りの出来事である。② 聖化は、現在進行形の救いである。③ 栄化えいかは、未来形の救いである。（2）第2の説明法。① 義認は、罪責からの解放である。② 聖化は、罪の力からの解放である。③ 栄化は、救いの完成、聖化の完成である。（3）第3の説明法。① 義認は、神の義の転嫁てんかである。② 聖化は、神の義の賦与ふよである。③ 栄化は、義なる神との一致である。
以上の理解をもとに、聖化の土台について、数回にわけて学んでみます。

予想される質問

パウロは、ある質問を想定して、こう問いかけています。「それでは、どういうことになりますか。恵みが増し加わるために、私たちは罪の中にとどまるべきでしょうか」（1 節）。（1）「それでは、どういうことになりますか」という言葉は、議論が「義認」から「聖化」に移ったことを示しています。また、読者の注意を喚起かんきするという目的もあります。（2）「恵みが増し加わるために、私たちは罪の中にとどまるべきでしょうか」。ここでの動詞は、現在形です。つまり、「罪の中にとどまる」とは、未信者の時と同じように、習慣的に罪を犯し続けることを意味しています。
この質問が予想される理由は、5：20 にあります。「律法が入って来たのは、違反が増し加わるためです。しかし、罪の増し加わるところには、恵みも満ちあふれました」。（1）パウロは、罪が増せば恵みも増すと言いました。さらに彼は、義認は信仰により、恵みによると説きました。「福音の3要素」を信じるだけで、人は救われます。また、一度救われた人が救いを失うことはありません。（2）ならば、罪にとどまり続けるほうが、恵みが増すのではないかという疑問が出てきます。恵みによる救いを説けば、昔も今も、必ずこの質問が出てきます。（3）パウロは、「罪が増せば、恵みも増す」という真理は否定していません。彼が否定しているのは、恵みを放縦ほうじゅうな生き方をする口実にすることです。この点をよく注意する必要があります。この質問に対するパウロの回答については、次回学びます。私たちも、キリストにある自由（恵み）を、愛を働かせる機会として用いようではありませんか。