私はヨセフです

ここから次の章（45 章）に入っているが、この箇所は、自然な流れとしては、44 章の中に入るべきものである。（1）ヨセフは、これ以上演技ができなくなった。「自分を制することができない」とは、そういう意味である。彼は、その部屋にいたエジプト人を全員外に追い出し、誰もいなくなってから、大声を上げて泣いた。その泣き声は、パロの宮廷の者たちにも聞こえた（ヨセフの家はパロの宮廷に近かったのであろう）。（2）ユダの執りなしは、44：18 ～34 にも及ぶ長い執りなしであったが、それに対するヨセフの応答は、驚くほど短く、簡単なものである。「私はヨセフです」。英語では「I am Joseph」。ヘブル語では「アニ・ヨセフ」。たった2 語である。この短い言葉によって、ヨセフは兄たちとの和解を宣言したのである。（3）ヨセフは、「父上はお元気ですか」と聞いているが、これは質問ではなく、「父が健在なのはうれしいことだ」という意味である。

兄たちの応答

兄たちは答えることができなかった。彼らは、復活したヨセフを目撃したのである。また、自分たちの罪を思い出し、ヨセフの復讐ふくしゅうを恐れた。（1）ヨセフは彼らを招いた。「どうか私に近寄ってください」。これで兄弟関係が回復されるのである。（2）「私はあなたがたがエジプトに売った弟のヨセフです」。これは、自分が本当にヨセフであると念を押しているのである。（3）「今、私をここに売ったことで心を痛めたり、怒ったりしてはなりません。神はいのちを救うために、あなたがたより先に、私を遣わしてくださったのです」。神の計画の中で人間が演じる役割がある。兄たちはその役割を果たし、神の御心が成ったのである。ヤコブの一家がエジプトで生き延のびるというのが、神の御心である。（4）ききんはまだ5 年続く。ヨセフは兄たちに、父と共に直ただちにエジプトに移住するようにと進言する。移住する土地は、「ゴシェンの地」である。そこは都に近く、羊を飼うには最適な地である。（5）ヨセフはベニヤミンに対して、自分の目でしっかり見るようにと助言した。懐疑的かいぎてきな父でも、ベニヤミンの言うことなら信じるはずだからである。（6）最後に彼らは、抱擁ほうようと口づけをした。ベニヤミンとは、再会を喜ぶ抱擁と口づけ、兄たちとは、和解のための抱擁と口づけである。
神は、人間の悪意や悪行さえも、良いことのために用いることのできるお方である。この方に信頼することを学ぼうではないか。