激しいききん

　アブラムの信仰が、激しいききんによって試されることになる。（1）「ききん」という言葉が2 度出てくる。2 度目には「この地のききんは激しかったからである」とあり、ききんの激しさが強調されている。（2）アブラムは、約束の地からエジプトに下る決心をする。もちろん、永住の意図はない。しばらく滞在するだけという判断のもとに、彼は行動を起こした。（3）この時代のエジプト人は、他人の妻を略奪することで有名だった。アブラムの妻サライは、65 歳になっていながら美貌を保っていた。当時の平均寿命は、今の平均寿命のおよそ倍だと言われている。アブラムは、自分が殺されるかもしれないという恐れを抱いた。（4）そこで彼は、異母妹であった妻サライを、妹だと偽った。これは、半分嘘うそで半分真実である。当時の習慣によれば、父が死んだ後は兄が妹の保護者となる。もし男性から結婚の申し出があれば、兄が花嫁料について交渉することになる。アブラムは、もしエジプト人がサライとの結婚を申し込んできたら、交渉に時間をかけ、その間に逃亡することができるとでも考えたのであろう。

パロの宮廷

　「パロの高官たちが彼女を見て、パロに彼女を推賞したので、彼女はパロの宮廷に召し入れられた」（15 節）。（1）サライに関する情報は、すぐにパロに伝えられた。その結果、想定外のことが起こった。パロが、アブラムとの交渉を飛び越えて、サライを宮廷（ハーレム）に召し入れたのである。（2）パロは、当時の習慣に従ってアブラムに花嫁料を払った。・ 羊の群れ、・ 牛の群れ、・ ろば、・ 男の奴隷、・ 女の奴隷、・ 雌ろば、・ らくだ。アブラムは裕福になったが、一番大切なもの（最愛の妻）を失った。（3）アブラムが手に入れたのは、不正の富である。物質的な繁栄は、必ずしも神の祝福の結果とは言えない。アブラムは、多くの家畜を所有したために、甥のロトと共存できなくなった。また、エジプトの女奴隷ハガルは、この時手に入れたと思われるが、そのことが、サライとハガルの葛藤かっとう（16 章）、イサクとイシュマエルの葛藤（21 章）、そして、今日のユダヤ人とアラブ人の葛藤へとつながって行く。
　一時的な信仰の揺ゆれが、かくも重大な結果をもたらしたのである。アブラムの失敗から、教訓を学ぼう。少しの不信仰、少しの妥協だきょうが、重大な悲劇をもたらす。神が約束してくださった場所に留まるのが、最も安全な方法である。