カナン人の女

イエスが弟子たちとともにツロとシドンの地方に立ち退しりぞかれたとき、ひとりのカナン人の女が現れた。（1）「カナン人」とは、その地方に住んでいた人々の総称である。より具体的には、「この女はギリシヤ人で、スロ・フェニキヤの生まれ」であった（マコ7：26）。（2）彼女はイエスに、「主よ。ダビデの子よ」と呼びかけ、悪霊につかれた娘の癒しを求めた。「ダビデの子」とは、メシアのタイトルである。（3）しかしイエスは、沈黙ちんもくしておられた。その理由は、彼女が奇跡を求めた根拠こんきょに問題があったからである。イエスは、ユダヤ人のメシアとして、ユダヤ人を祝福するために来られた。しかしこの女は、ユダヤ人のために用意された祝福を求めたのである。（4）弟子たちは、その女を帰すようにとイエスに願った。よほどうるさかったのであろう。（5）イエスは、「わたしは、イスラエルの家の失われた羊以外のところには遣わされていません」と言われた。これは、ユダヤ人のために用意された祝福を異邦人に与えることはできない、という意味である。

変更された願いの言葉

（1）この女は、願いの言葉を変えてイエスに懇願した。「主よ。私をお助けください」。つまり彼女は、イエスの憐れみだけを求めたのである。（2）イエスは、この女の信仰を試した。「子どもたちのパンを取り上げて、小犬に投げてやるのはよくないことです」。子どもたちとはユダヤ人のことであり、小犬とは異邦人のことである。（3）女は、「主よ。そのとおりです。ただ、小犬でも主人の食卓から落ちるパンくずはいただきます」と答えた。つまり、自分はユダヤ人が受ける祝福を奪おうとしているのではなく、異邦人に用意されている祝福を求めているだけなのだ、という意味である。（4）この女は、信仰のテストに合格した。イエスは、「ああ、あなたの信仰はりっぱです。その願いどおりになるように」と言われた。
アブラハム契約の中には、異邦人が受ける祝福も含まれている。イエスの十字架によって、私たち異邦人もまた神の子とされ、永遠のいのちの約束に与あずかるようになった。カナン人の女の願いが聞き届けられたとするなら、神が私たちの願いを聞いてくださらないはずがない。神の小羊であるイエスを通して、恵みの御座に近づこう。大祭司イエスを通して、大胆だいたんな願いを神に申し上げようではないか。