「なだめの供え物」

ここまでで、「義認」について4回にわたって論じてきました（21 〜 24節）。今回は、「なだめの供え物」という言葉を通して、義認を別の角度から論じたいと思います（25 〜26 節）。
「なだめの供え物」と訳された言葉は、ギリシア語で「ヒラステイリオン」と言います。この言葉は、①「なだめの供え物」（新改訳）、②「あがないの供え物」（口語訳）、③「罪を償つぐなう供え物」（新共同訳）などと訳されています。④ 英語では「propitiation」と言います。なだめ、和解、贖いなどの意味があります。

キリストは「なだめの供え物」

「神は、キリスト・イエスを、その血による、また信仰による、なだめの供え物として、公にお示しになりました」（25節a）とあります。（1）この聖句では、義認の真理が「なだめの供え物」という概念がいねんによって説明されています。そして、イエスがその「なだめの供え物」となられたのです。（2）「その血による」とは、イエスが十字架上で血を流されたことを指しています。ヘブル9：22にはこうあります。「それで、律法によれば、すべてのものは血によってきよめられる、と言ってよいでしょう。また、血を注ぎ出すことがなければ、罪の赦しはないのです」。（3）「また信仰による」とあります。別訳では、①「信仰をもって受くべき」（口語訳）、②「信じる者のために」（新共同訳）となっています。つまり、イエスの十字架上の死は、信仰をもってそれを受け取る人にのみ有効だということです。この聖句によって、パウロは普遍的救い（universalsalvation）を否定しています。（4）さらに、「公にお示しになりました」とあります。ギリシア語では「プロエセト（基本形プロティセイミ）」ですが、別訳では、①「このキリストを立てて、」（口語訳）、②「このキリストを立て、」（新共同訳）となっています。この訳の中では、新改訳の「公にお示しになりました」が一番いいと思います。「プロエセト（基本形プロティセイミ）」という言葉が伝えているニュアンスは、商品の陳列、競技の勝者への賞品の陳列、などです。つまり、この言葉は、「キリストは、十字架上で天使と人の目の前にさらしものとなられた」ことを示しています。キリストはひそかに血を流されたのではなく、白日はくじつの下でそうされたのです。
キリストの死によって、私たちは神の怒りから免まぬかれました。その祝福は、キリストを信じる者にだけ与えられるものです。