ペテロの質問

兄弟の罪を赦すというテーマは、イエスの弟子である私たちにとっては重大問題である。ペテロもこの問題を認識していたようで、イエスにこう質問する。「兄弟の罪は7 度まで赦すべきでしょうか」。「7 度まで」と言ったのは、寛大かんだいな心の表現である。当時のパリサイ派の教えでは、「3 度まで赦せ」とされていた。イエスの答えは、「7 度を70 倍するまで赦せ」であった。これは、490 回赦せという意味ではなく、無限大に赦せということである。完全数7 の70 倍は、ここでは無限大を意味している。赦しというのは、外面的な行為ではなく、内面の状態である。もし赦した回数を数えているとしたら、それは真の赦しとは言えない。

たとえ話からの教訓

無限の赦しを教えるために、イエスは借金を赦された人の話を始める。① この人は、1 万タラントの借金を免除された。ところが彼は、100 デナリの借りのある人を赦さなかった。② 1 タラントは6 千デナリ（およそ16 年分の収入）に相当する。1 万タラントは16 万年分の収入になる。これに基づいて計算すると、1 万タラントと100 デナリの比率は、60 万対1 となる。③ しかし、こういう対比よりも重要なことは、1 万タラントは莫大ばくだいな額の象徴であり、100 デナリは少額の象徴であるという点である。④ この人は多くを赦されながら、少しのことを赦さなかった。彼は、せっかく受けた赦しを、主人によって取り上げられてしまった。
このたとえ話から教訓を学ぼう。（1）神から多くのことを赦された者は、赦しを求めてくる兄弟たちに対して、常に赦しの心で接すべきである。（2）天の父は、憐れみ深い父である。私たちもまた、その姿を真似るべきである。（3）もし兄弟たちを赦さないなら、天の父からの赦しを受けることはできない。ただし、この場合の赦しとは、「永遠のいのちにかかわる罪の赦し」のことではない。主イエスを救い主と信じた人はすべて、罪赦されている。そして、その救いが取り去られることはない。ここで言われている赦しとは、「父なる神との交わりの回復」のことである。もし赦しの心がないなら、クリスチャンであっても、地上生涯において父なる神との交わりを体験できない状態に置かれる。そのようなクリスチャン生活に喜びはない。赦せない人がいるなら、そのことを父なる神に告白しよう。記憶が消えることはなくても、痛みや苦々しい思いは消える。自分の思いを聖霊に委ゆだね、父なる神の御心だけがなることを願い求めよう。