大虐殺

（1）シェケムの男たちが割礼を受けて3 日目のことであった。これは、傷が最も痛む時である。そのタイミングを見計らって、シメオンとレビが犯行に及ぶ。「難なくその町を襲い、すべての男子を殺した」とある。その後彼らは、ディナを救出した。さらに、婦人や子ども、また、町の財産を略奪した。非は相手にあるとは言え、これは明らかに過剰防衛かじょうぼうえいである。（2）息子たちの暴虐行為を聞いた父ヤコブは、彼らに抗議する。「あなたがたは、私に困ったことをしてくれて、私をこの地の住民カナン人とペリジ人の憎まれ者にしてしまった。･･･彼らがいっしょに集まって私を攻め、私を打つならば、私も私の家の者も根絶やしにされるであろう」。ヤコブが恐れたのは、一家が虐殺される可能性が出てきたという点である。（3）シメオンとレビは、すぐさま反論した。「私たちの妹が遊女のように取り扱われてもいいのですか」。確かに、花嫁料を受け取ってディナを嫁にやるなら、彼女は遊女のようになる。（4）しかし、彼らの問題は「過剰防衛」という点にあった。その結果、彼らは罪の刈り取りをするようになる。ヤコブの臨終の床での預言（創49：5 ～7）によれば、シメオンとレビからは土地の権利が剥奪はくだつされる。この預言は、出エジプト後に成就する。シメオン族は、ユダ部族の中に点在した町々を得るが、後の時代には、そこを去って北に移動する。祭司の部族となったレビ族には、土地の分割はない。

教訓

なぜヤコブの一家に、このような悲劇が起こったのか。ヤコブは、熱心な祈りによって神の祝福を勝ち取ったのであるが、彼はいまだにヤコブであり、イスラエルにはなり切っていない。彼には、ベテルに上るだけの霊的準備がなかったと思われる。彼には、地上のもの（土地）へのこだわりがあった。また彼は、家庭内に偶像を持っていた。さらに、息子たちの性格は荒削りであった。
先に進まない信仰者は、神を見失う。創世記34 章には、「神」という言葉が一度も出てこない。イスラエル人は、カナン人と同化する危険性に直面していたが、ディナ事件とそれに続く割礼事件によって、その危険性から救われた。神は、ヤコブに大いなる恐れを与えることによって、先に進むように彼の背中を押されたのである。次の35 章は、神の語りかけで始まるが、そこには、神という言葉が11 回も出てくる（それ以外の神の御名も出てくる）。前進を始めた信仰者には、再び神の声が聞こえ始めるのだ。