ヤコブの嘘

イサクは異変に気づいたようで、「おお、わが子よ。だれだね、おまえは」と尋ねた。ヤコブは、父イサクに対して4 つの嘘をつく。（1）「私は長男のエサウです」。彼はエサウではないので、その部分は嘘であるが、「長男」というのは本当である。彼は、エサウから長子の権利を買ったので、法的には長男である。ヤコブの罪は、族長の祝福を奪ったことではなく、父を欺いたことにある。ちなみに、イサクとエサウが計画したことは、それ以上の罪である（神の御心を妨害する罪）。（2）「イサクは、その子に言った。『どうして、こんなに早く見つけることができたのかね。わが子よ』。すると彼は答えた。『あなたの神、主が私のために、そうさせてくださったのです』」。これは、明らかな嘘である。しかも、神の御名を使った嘘なので、重大な罪である。（3）イサクは、「声はヤコブの声だが、手はエサウの手だ」と言った。イサクは、聴覚よりも触覚による判断を優先させた。しかし、最後まで疑いをぬぐえなかったようで、「ほんとうにおまえは、わが子エサウだね」と尋ねた。ヤコブは、「私です」と答えたが、これは第3 の嘘である。（4）食事を終えたイサクは、「わが子よ。近寄って私に口づけしてくれ」と言った。ヤコブは近づいて、父に口づけした。この行為が第4 の嘘である。

族長の祝福

イサクは、ヤコブを祝福した。祝福の内容は3 区分される。（1）農業の祝福（天の露、地の肥沃、豊かな穀物と新しいぶどう酒）。（2）国々の上に立ち、兄弟たちの主となるという祝福。（3）祝福と呪いの言葉。この言葉は、アブラハム契約と関連したものである（12：3 参照）。イサクは誤ってヤコブを祝福したが、実はこれが神の計画であった。神はヤコブの罪にもかかわらず、この状況に介入されたのである。
聖書には、神がヤコブを非難している箇所はない。ヤコブを非難する言葉は、兄のエサウと叔父のラバンの口から出ている。しかしこの2 人は、ともに信頼できない人たちである。神はヤコブに、祝福のことばだけを語られた。とはいえ、ヤコブもまた罪の刈り取りをすることになる。種を蒔けば、その刈り取りをするようになるというのが、すべての人に適用される霊的法則である。ヤコブは、長年にわたる労苦を経験するようになるが、その中には、叔父おじのラバンによる欺きも含まれている。結局のところ、神の御心と調和して歩む人生こそ、最高に幸せな人生だと言える。